
ローマの水道橋と中世の城が息づく街、セゴビア|マドリードから日帰りで行ける世界遺産の町歩き
スペイン・マドリードから日帰りで訪れることができる世界遺産の街、セゴビア。ここには、古代ローマが築いた見事な水道橋、ディズニー映画のモデルと噂される城、そして壮麗なゴシック様式の大聖堂が、石畳の街並みに調和するように立ち並んでいます。歴史と建築が交差するこの町は、ただの観光地を超えて、訪れる者に「時代を旅する」体験をもたらしてくれます。
ローマ時代から残る奇跡の建造物、セゴビアの水道橋

セゴビアのシンボルともいえるローマ水道橋(Acueducto de Segovia)は、1世紀末~2世紀初頭に建設されたとされる古代ローマの土木技術の傑作です。紀元後50~112年ごろ、フラウィウス朝の時代に建てられたと考えられており、一部の研究者はヴェスパシアヌス帝の時代の可能性も指摘しています。
約2万個の花崗岩ブロックが、接着剤やモルタルを一切使わずに重力だけで組み上げられており、全長約728~818メートル、高さは最大約28メートル。167本のアーチが連なる姿は壮観で、古代ローマ建築の粋を今に伝えています。
精巧な構造と驚くべき技術
水道橋は二段構造で、下段と上段のアーチから構成されます。上段のアーチ幅は約5.1メートル、基礎の断面は約3メートル×2.4メートルという大規模な設計です。市の北部にあるフリオ川(La Acebeda)から約17kmにわたって水を引き、市街地の公共施設や浴場に供給していました。
この建造物はスペイン国内でも屈指のローマ遺構とされ、ユネスコの世界遺産にも1985年に登録されています。
修復と保存の取り組み
15世紀、イスラム勢力の攻撃で一部が破壊された後、セゴビアの修道院によって36のアーチが復元されました。20世紀末には車両による振動や大気汚染への対策として大規模な修復工事が実施され、2000年以降も継続的な保護が進められています。
2006年には劣化の危機に直面し、「危機にさらされている世界遺産」としても一時登録されましたが、その後の修復活動により、現在も非常に良好な状態を保っています。
観光スポットとしての魅力
水道橋の真下に広がるアソゲホ広場(Plaza del Azoguejo)は、観光客で賑わうフォトスポット。早朝や夕方には、光と影がアーチに美しく差し込み、特に印象的な光景が広がります。
周囲にはレストランやカフェが立ち並び、スペインの郷土料理「コチニージョ(子豚の丸焼き)」を味わうこともできます。水道橋に関する展示があるインタープリテーションセンター(旧造幣局)では、水の通り道や当時の技術について学ぶことができます。
ディズニーの城のモデル?夢のようなアルカサル城

街の高台にそびえるアルカサル・デ・セゴビア(Alcázar de Segovia)は、尖塔屋根と白壁が印象的な中世の古城。岩山の上に建ち、周囲を川が囲む天然の要塞として12世紀ごろに建設されました。その独特のシルエットは、まさにおとぎ話の世界を思わせます。
16世紀、スペイン王フェリペ2世の命でスレート屋根の塔が設けられ、現在の「とんがり帽子」のような外観が完成。空に向かって伸びる塔の姿は、どの角度から見ても絵になる美しさです。
ディズニー映画のモデル説にも納得
この城は、ディズニー映画『白雪姫』(1937年)に登場する女王の城のモデルのひとつとされており、同作品を手がけたウォルト・ディズニーも訪れたという逸話が残っています。現在のディズニーランドにあるシンデレラ城や眠れる森の美女の城にも、アルカサルの要素が取り入れられたとも言われています。
2025年には、実写版『白雪姫』のヨーロッパプレミアが実際にこの城で開催され、主演レイチェル・ゼグラーらが登壇。その幻想的な雰囲気が再び注目を集めました。
城の内部も見応えたっぷり
城内には豪華な王室の調度品や絵画、騎士の甲冑などが展示され、かつてのカスティーリャ王国の栄華を感じさせます。中でも「王の間(Sala de los Reyes)」は、歴代のカスティーリャ王たちの胸像が天井に並ぶ荘厳な空間。
また、ジュアン2世の塔の上部へ続く156段の螺旋階段を登れば、セゴビアの旧市街や周囲の自然を一望できる絶景が広がります。写真映えスポットとしても非常に人気があります。
歴史を感じる名城として
アルカサルは中世から近世にかけて王宮、軍事拠点、さらには王立砲兵学校としても使用されてきました。19世紀には火災で一部が焼失しましたが、現在は修復され、博物館として公開されています。
セゴビアの歴史と文化を体感できる貴重な場所として、スペイン国内外から多くの観光客が訪れています。
ゴシック建築の傑作、セゴビア大聖堂

セゴビア大聖堂(Catedral de Segovia)は、16世紀に建てられたスペイン・ゴシック様式の傑作です。その優雅な外観から「大聖堂の貴婦人(La Dama de las Catedrales)」とも称され、スペイン国内のゴシック建築の中でも特に美しいものの一つとして知られています。
建設が始まったのは1525年。当時すでにゴシック様式は下火となっていましたが、セゴビアではあえてこの様式が選ばれ、その集大成ともいえる構造美と装飾が実現しました。完成はおよそ250年後の1768年です。
精緻な建築美と光の演出
三廊式の内部は、天井高約30メートルを誇る荘厳な空間。柱や天井リブ、尖塔アーチなどゴシック建築特有の垂直性が強調されており、訪れる人を圧倒します。
大聖堂を彩るステンドグラスは16~17世紀のものを中心に、2020年代以降も修復と補修が進められています。そこから差し込む柔らかな光は、聖堂内に神秘的な雰囲気を与え、訪れた人々に静謐な時間をもたらします。
内部の見どころも充実
堂内には18の礼拝堂があり、各所に宗教画や彫刻、歴代の聖職者にまつわる記念碑などが飾られています。とりわけ、「王室礼拝堂」や「聖体礼拝堂」は華麗な装飾で知られ、ゴシックからルネサンス、さらにはバロックへと移り変わる様式の融合も楽しめます。
また、旧大聖堂から移築されたクロイスター(回廊)は特に貴重で、彫刻や柱の装飾に中世の面影が色濃く残ります。
塔の展望台からセゴビアを一望
大聖堂に併設された高さ88メートルの鐘楼は、225段の螺旋階段で登ることができ、セゴビアの旧市街、水道橋、アルカサル城まで一望できる絶景スポットです。塔へのアクセスは別料金ですが、写真好きや歴史ファンにとっては見逃せない体験です。
500周年記念|特別展示や夜間イベントも開催
2025年は着工から500周年を迎える節目の年。これにあわせて、大聖堂では特別展や夜間公開イベントが行われています。
注目は、英国人アーティストによる巨大な月のインスタレーション《Museum of the Moon》。直径7メートルの月のオブジェが内陣に展示され、幻想的な夜の教会空間を演出しました。
また、建設当時の資料や古文書、未公開の宗教美術作品の公開も行われており、建築史と信仰の歴史をより深く知る機会となっています。
音楽と祈りが響く特別な場所
大聖堂では、年に数回、オルガン演奏や宗教音楽のコンサートも行われています。特に人気なのは、毎年12月に開催されるヘンデル『メサイア』の公演。荘厳な空間に響く音楽は、まさに心を洗われる体験となるでしょう。
訪問にあたって|基本情報
営業時間:夏季(4~9月)9:00~21:30、冬季(10~3月)9:30~18:30
入場料:大聖堂+回廊 7ユーロ、塔まで含むチケットは10ユーロ前後(ガイド付きもあり)
アクセス:セゴビア旧市街の中心部に位置し、水道橋やアルカサル城から徒歩圏内
中世の風景が残る街並みを散策

セゴビアの旧市街は、まるで時が止まったかのような中世の面影を色濃く残す歴史地区。ローマ時代の水道橋から、アルカサルや大聖堂へと続く道筋には、石畳の坂道、重厚なファサードの建物、ひっそりと佇む教会や小さな広場が点在しています。
1985年には「セゴビア旧市街とローマ水道橋」としてユネスコの世界遺産に登録され、その保存状態の良さと建築様式の多様性が高く評価されました。
風情あるエリアを歩いてめぐる
アソゲホ広場(Plaza del Azoguejo):ローマ水道橋のたもとにある広場で、セゴビア観光の起点。地元民も観光客も集う活気あるエリアです。
マヨール広場(Plaza Mayor):大聖堂前に広がる広場は、市民生活の中心。週末には市場が立ち、カフェのテラス席も人気です。
フアン・ブラーボ通り(Calle Juan Bravo):商店やレストランが集まり、食事や買い物も楽しめる石畳の通り。中世の面影を残す建物が並びます。
旧ユダヤ人街(Judería Vieja):歴史的なシナゴーグ跡や博物館がある静かな一角。街の多様な宗教文化を物語ります。
建物ひとつひとつが物語を語る
旧市街には、イスラム、ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロックといった多様な建築様式が折り重なり、通りを歩くごとに異なる時代背景が感じられます。中でも、ファサードに幾何学模様が刻まれた「エスグラフィア装飾」の建物は、セゴビアならではの特徴。
また、多くの建物が現在も住宅や店舗として使用されており、観光地でありながら人々の生活の場として息づいている点もこの街の大きな魅力です。
日常と非日常が交差する時間
旧市街には小さなバルやカフェが数多く点在し、地元の人々の暮らしと観光客の時間が自然に交差しています。朝の静かな通り、昼のにぎわい、夕暮れにオレンジ色に染まる石壁の風景──どの時間帯もセゴビアの魅力を感じられる瞬間です。
また、夜はライトアップされたアルカサルや水道橋が幻想的な雰囲気を演出。石畳に反射する光が、まるで映画のワンシーンのような情景をつくり出します。
子豚の丸焼きを本場で味わう、セゴビア名物「コチニージョ」
セゴビアを訪れたら必ず味わいたい名物料理が、コチニージョ・アサード(Cochinillo Asado)。生後2~3週間ほどのミルクだけで育った子豚を丸ごと、石窯でじっくりローストした料理で、外はカリッと香ばしく、中はほろほろと崩れるほど柔らかいのが特徴です。
塩と脂だけのシンプルな味付けながら、余計な風味を一切加えないことで、肉本来の旨味が最大限に引き出されています。香ばしい皮ととろけるような肉質のコントラストは、まさに芸術品。
お皿で切り分ける、老舗の伝統スタイル
コチニージョの本場として最も有名なのが、メソン・デ・カンディド(Mesón de Cándido)。セゴビアのローマ水道橋のたもとにあるこの老舗レストランでは、柔らかさを証明するためにナイフではなくお皿で肉を切るという儀式が伝統となっています。
1941年創業のこの店は、スペイン国王から表彰されたこともある名店で、今でも観光客と地元民の両方に愛され続けています。木製の梁と白壁が印象的な店内は、まるで中世の食堂に入り込んだかのような雰囲気。
マドリードから約30分|アクセス抜群の世界遺産都市
セゴビアは、首都マドリードからわずか30分~1時間でアクセスできる場所にあり、日帰り旅行先として非常に人気のある歴史都市です。ローマ水道橋やアルカサルといった世界遺産級のスポットがコンパクトにまとまっているため、日帰りでも十分に楽しめるのが魅力です。
高速鉄道(AVE・AVANT)で快適&最速アクセス
利用駅:マドリード・チャマルティン・クララ・カンポアモール駅(Madrid-Chamartín-Clara Campoamor)
所要時間:最速で約27分~40分(AVEまたはAVANT利用)
到着駅:セゴビア・ギウマール駅(Segovia-Guiomar)
運行本数:1時間に1~2本程度
注意点:セゴビア駅は旧市街から約7km離れており、市バス(L-11番)またはタクシーで中心部へ移動(所要15~20分)
鉄道は快適かつ時間の読める手段で、往復での利用者も多く、週末や繁忙期は事前予約がおすすめです。
バスでのんびり移動|安くて景色も楽しめる
発着地:マドリード南バスターミナル(Estación Sur de Autobuses)
所要時間:約1時間15分~1時間30分
運行会社:La Sepulvedana(セプルベダーナ社)
発着場所(セゴビア側):旧市街のすぐ近く(アクエドゥクト近く)
バスは鉄道に比べてやや時間がかかりますが、セゴビアの歴史地区に近い場所で降りられるのがメリット。乗り換え不要で観光拠点へすぐアクセスできます。
車でのアクセス|自由な旅にぴったり
所要時間:マドリードから約1時間15分(約90km)
経路:A-6号線 → AP-61(有料高速道路)経由が最もスムーズ
駐車場:旧市街周辺には有料駐車場あり(例:アクエドゥクト地下駐車場など)
郊外の修道院や展望スポットを巡りたい方には、レンタカーでの訪問もおすすめ。山道や石畳の道もあるため、運転には多少の注意が必要です。
昼過ぎに到着して観光・ランチ・夕方の街歩きを楽しみ、夜にはマドリードに戻るというプランも現実的です。時間に余裕があれば、1泊してライトアップされた街並みを楽しむのもおすすめです。
まとめ|歴史が生きるセゴビアは「見る」だけでなく「感じる」場所
セゴビアは、ただの観光地ではなく、歴史の息遣いを間近に感じることができる「生きた遺産都市」です。ローマ時代から続く土木技術、中世の王たちの権力と夢、そして今なお暮らしのなかに息づく伝統と味。それらが一体となったこの街には、目だけでなく心を動かす力があります。スペイン旅行の中でも、特別な一日になること間違いなしです。